パウリの「相対性理論」が文庫版で登場

先週本屋の店先を見ておりましたら、パウリの「相対性理論(上)(下)」が文庫化されておりましたので、思わず購入してしまいました。

同書は、以前のこのブログでご紹介いたしましたパウリの「相対性理論」を文庫化したものでして、絶版となっておりました同書を、多少経済的に読むことができる、大変にありがたい話ではあるのですね。

同書の優れた点は、時間が虚数的に振舞う、とのミンコフスキー流の扱いを前面に押し出していることでして、このように扱うことで、ローレンツ変換にもとづく特殊相対性理論と同等の結果を与え、しかも、互いに等速直進運動する系の間での座標変換を、時間軸を含む平面内での座標の回転変換として扱うことが可能となります。

これにつきましては、本ブログでも議論いたしました虚数時間の物理学をご参照ください。ま、「遠隔作用は距離ゼロに作用する」という、一見矛盾しているような原理が導き出されるのですが、これは、虚数時間を認めるか否かに関わらず出てくる原理でして、この奇妙さをもって時間が虚数的に振舞うということを否定する理由にはなりません。

さて、ファインマン物理学(1)では、実は、ミンコフスキー流の時間を虚数として扱う手法は一切述べられておりません。また、わが国の物理学の教科書の多くもファインマン流の扱いを踏襲しており、ミンコフスキー流の手法については、言及はされているものの、それをベースとして理論を展開しているものはあまり見かけません。

しかし、時間が虚数的に振舞うという前提をおかない場合、式の扱いが極めて複雑になりまして、一般相対性理論を記述することが困難になるのでは、と思います。

もちろん、一般相対性理論はテンソルで記述されております。テンソルはベクトルや行列を拡張する数式上の表現方法なのですが、そこに時間を含む要素にかかわる演算に特殊な処理を施す、という約束事を追加すればミンコフスキー流と同様な扱いが可能となります。しかし、そのような特殊な処理を施すのはなぜか、という根拠があいまいになってしまうのですね。

時間が虚数的に振舞う、という前提を受け入れるのでしたら、式の上では時間を虚数で表し、虚数同士を掛け合わせればマイナスになる、という虚数であれば当然の演算則をあてはめるだけで片付いてしまいます。

また、最初からミンコフスキー流の扱いで通せば、ローレンツ変換は座標系の回転変換と同等となり、電磁気学におけます4元ベクトルの扱いも、時間にかかわる要素に特殊な演算規則を設ける必要もなくなります。つまりは、物理法則がエレガントに記述できるのですね。

今日の物理学の教科書の多くが、なぜこのような簡単な取り扱いをせずに複雑な表現をするのか、という点につきましては以前も議論いたしましたが、謎、としか言いようがありません。まあ、物理学業界の権益維持のため、でなければよいのですが、、、いずれにせよ、これも、現代知性の七不思議の一つにカウントしておきましょう。

ちなみに、一般相対性理論まできちんと扱っております、C.メラーの「相対性理論」は、パウリ同様、ミンコフスキー流の虚数時間に基づいて式を展開しております。こちらは現在にいたるまで出版されつづけておりました。まあ、定価が少々お高いのが難点、といえるかもしれません。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、同書のご紹介を簡単にしておきましょう。

同書はパウリが21歳のときに著しました書物で、1921年時点までの相対性理論に関して発表された理論をリサーチしてまとめたものです。その後、1955年までの進歩につきましては、付録の形で添付されておりますので、そうそう古臭い、ということもありますまい。

それにしても、パウリ21歳の時の著作、ということはすなわち学生時代の著作、というわけなのですが、まったく馬鹿にしたものではありません。と、いうよりも、これだけのものが書ける人間は、一人前の学者の中にも、そうそうはいないのではなかろうか、と思われるほどの出来です。いかにパウリが早熟の天才であったかを示す証拠のような一冊ではあります。

もちろんこれは、パウリの師でありますゾンマーフェルトが優れた学者であった、ということでもあるのでしょう。かつてカントが活躍いたしましたケーニヒスベルク育ちで、物理数学の大家でありますゾンマーフェルトは、光の回折現象を電磁気学できちんと説明した、マックスゥエルの方程式で解いた、という点が私にとりましては印象的な方なのですが、その弟子たちが量子力学の発展に多大の貢献をしたという点も忘れてはいけないでしょう。

さて、内容のほうは、ここで私が簡単にご紹介できるような代物ではありません。項目だけご紹介いたしますと、まず歴史的背景をざっとおさらいした後、「数学的準備」といたしましてミンコフスキー流の虚数時間を用いました時空の理論とテンソル代数を説明いたします。ついで特殊相対性理論、すなわち運動方程式と力学、および電磁理論について紹介し、応用問題を解説して上巻を終わります。で、下巻で一般相対性理論と荷電粒子の理論を解説する、という内容です。

下巻の後半分は、付録、となっておりまして、発表後30年間の進歩について、パウリ自身による解説が加えられております。

付録の中でも圧巻は「[23]統一場理論に関するその他の試み」でして、重力場と電磁場を統一しようという試みに関連して、次のように述べます。

その前に、ある基本的な注意を述べておきたい。それは直感的にいえば、物体のもつ“波動性”と“粒子性”という二重性(この性質は量子力学が完成された1927年以来、新しく確立された統計的法則によって見事に記述されている)を説明するのに古典的“連続物理学”がどこまで適用できるかという問題に関する注意である。

さらにこの部分には次のような脚注がついております。

量子力学では、古典力学における粒子概念ばかりではなく、古典的場の理論における波動の概念もまた根本的な変革をこうむるにいたったことを忘れてはならない。実際、Schroedingerも示したように、相互作用している多数の粒子の集団は高次元の配位空間の中における波により記述され、普通の4次元時空の波では記述できない。また粒子が発生したり消滅したりする場合(つまり粒子の総数が時間とともに変化する場合)には次元数の異なる上述のような配位空間の集合が必要である。これに対応することがいわゆる“場の量子化”である。場の量子論では、普通の4次元時空における波動場の振幅は適当に定義された演算子におきかえられる。

と、いうわけで、量子論の側では相対論をカバーしている一方で、相対論が量子論を取り込んで統一場理論を作り上げることはなかなかに難しい、ということです。

ちなみに、Wikipediaによりますと、統一場の理論はまだできあがっていないとのこと。超弦理論が有力候補、ということなのですが、認識論的問題をいかに解決せんとしているか、興味のあるところです。


虚数時間の物理学、まとめはこちらです。

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