ラグランジアンとハミルトニアン

このところのこのブログでは、量子力学へのチャレンジを続けているのですが、本日は、ちょっと古典力学に戻りまして、ラグランジアンとハミルトニアンについて考えてみることにいたしましょう。

ラグランジアンとハミルトニアン、実は量子力学の書物を読みますと、そこらじゅうに出てまいりますが、これは元々古典力学の概念です。

量子力学の本を書く人は、こんなことぐらい誰でも知っていると考えているためか、あまり説明がなされていない場合が多いのですね。しかし、実のところ、ニュートン力学ほどには一般的な常識ではありません。

ポーリングとウィルソンの「量子力学序論および化学への応用」は、このあたりのところからきちんと解説している良書なのですが、残念ながら同書は現在、絶版中です。そこで、本日は、少々詳しく、同書の内容をご紹介することといたしましょう。

古典力学ですから、まずは簡単な、摩擦のないレール上の台車(質量 m)が、「ばね」で、ある点(x = 0)に引っ張られている状態を考えてみましょう。(この例題は、本ブログのオリジナルであり、間違いはすべて私の責に帰します。)

台車が振動しているとき、系のエネルギーは、あるときにはすべてが台車の運動エネルギー(T)となり、またあるときには、エネルギーのすべてはポテンシャルエネルギー(V)としてばねに蓄積されます。で、これらの差としてラグランジアン L を定義いたします。すなわち、次式で定義いたします。

(1)   L = T - V

運動エネルギー T は、速度を v とするとき、次式で与えられます。

(2)   T = m v2 / 2

また、台車に加わる力 F は、ばね定数を k とするとき、(3)式で与えられ、これを位置 0 から x まで引っ張ってくるために必要な仕事(つまり位置 x にあるときのポテンシャルエネルギー V)は(4)式で与えられます。

(3)   F = - k x
(4)   V = - k x2 / 2

ポテンシャルエネルギーはばねの力を位置 0 から位置 x まで積分したもので、(3)式を 積分したものが(4)式となります。これは、逆に、(4)式のポテンシャルエネルギー V を位置で偏微分すると(3)式の力 F となることから、容易に確認できるでしょう。

(5)   ∂V/∂x = - k x = F

ニュートンの運動方程式は、おなじみのもので、(6)式の形をしています。α は加速度、すなわち速度 v の時間微分であり、これに質量 m を掛けたものは運動量 (m v)を時間で微分したものでもあります。つまり、力は運動量(m v)の時間微分に等しい、というわけですね。

(6)   F = m α = m dv / dt = d(m v) / dt

さて、運動エネルギーを速度で偏微分したものは、実は運動量ですので、(6)式は次のように書くことができます。

(7)   F = d(m v) / dt = d / dt (∂T /∂v)

力 F に(5)式を代入いたしますと次のようになります。

(8)   d / dt (∂T /∂v) + ∂V /∂x = 0

運動「エネルギーは速度の関数であり、ポテンシャルエネルギーは位置の関数であることを思い起こせば、ラグランジアン L = T - Vを速度で微分したものは運動エネルギーを速度で微分したものに等しく、ラグランジアンを位置で微分したものはポテンシャルエネルギーを位置で微分したものの符号を変えたものに等しい、ということになります。これを用いて(8)式を書き直すと次のようになります。

(9)   d / dt (∂L /∂v) - ∂L /∂x = 0

(9)式をラグランジェの運動方程式と呼び、これはニュートンの運動方程式であります(6)式と同じことを意味しております。

さて、こんなわかりにくい表現にして何がうれしいか、ということなのですが、ラグランジェの運動方程式は複雑な系に対しても書き下すことができる、という利点があるのですね。

多数の質点からなる系を考えます。ここで、あるものは、互いに接続されているなど、自由度を束縛されていることもありえます。このような系にあるそれぞれの質点の位置は、独立な自由度を有する n 個の変数(位置に対応する変数:q1, ...qn)の関数として表されます。

xi = fi(q1, ...qn)
yi = gi(q1, ...qn)
zi = hi(q1, ...qn)

で、Lを系全体の運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの差として、(9)式と同様な関係がすべての位置に対応する変数qi(ここで、i は 1 から n)に対して成り立ちます。「量子力学序論」には、これが成り立つ理由がきちんと解説されているのですが、長くなりますので、結果だけご紹介いたします。

(10)   d / dt (∂L /∂qi) - ∂L /∂qi = 0

ここで、q の上にドットがついておりますのは、q を時間で微分したもの(∂q/∂t)であることを示しております。ドットがハート型をしておりますことはご愛嬌。●のフォントを使いますと、ドットが大きくなりすぎるためにこうしております。ちなみにハートのフォントは“♥”と書くことで表示できます

ラグランジアンに関しては、もう一つの面白い性格があります。時刻t1から時刻t2までの物体の移動は、その間のラグランジアンを時間に対して積分した値が最小になるように決まる、ということです。これは、Wikipedeaの「最小作用の原理」に詳しいのですが、「ハミルトンの原理」などと呼ばれておりまして混同しそうになります。

局部的な微分方程式で表される物理法則の多くは、大域的な法則、すなわち、大域的に定義される量を最小とするという物理法則としても表すことができることが知られております。

屈折・反射をともなう光線の経路は、二点間を最短時間で結びますし、構造物に外力を加えたときの変形は、構造物全体のひずみのエネルギーを最小とする形で生じます。また、複雑な形をした電導体に電流を流したときの導体内の電流は、発生する熱を最小とする形に分布することが知られております。

さて、ラグランジアン L は運動エネルギー T とポテンシャルエネルギー V の差 (L = T - V) として定義したのですが、これらの和 (H = T + V) を「ハミルトニアン」と定義いたします。

ハミルトニアンを使用しても、ラグランジェの運動方程式と同様な運動方程式を書き下すことができます。これは(11)式の形をしております。

(11)   ∂H / ∂pi = qi, ∂H / ∂qi = -pi

ここで、pi は、位置 qi に共役な一般化運動量と呼ばれております。共役運動量はラグランジアンを用いて次のように定義されます。

(12)   pi = ∂L / ∂qi

これを用いますと、(10)式は次のように書かれます。

(10')   pi = ∂L /∂qi

なるほど、ラグランジアンとハミルトニアンは、ポテンシャルエネルギーの符号が反転しておりますので、(11)の右側の式と(10')式の符号が反転しているのはうなずけるところです。また、(11)の左側の式は、エネルギーを運動量で微分したものが速度になる、というもので、確かに次のような式を書けば、形式的にはそのとおりである、といえそうです。

(13)   ∂T / ∂p = ∂(m v2 / 2) / ∂p = ∂(p2 / 2 m) / ∂p = p / m = v = q

ここで一つ疑問が生じますのは、上のように、運動エネルギーを運動量に置き換えるのは、実は非相対論的扱いなのですね。そうなりますと、果たしてハミルトニアンを相対論的扱いに応用してよいものかどうか、今ひとつ自信がもてなくなってしまいます。まあ、だめという証拠もつかんではおりませんので、これは、疑問、ということにしておきましょう。

そういえば、ラグランジェの運動方程式にしたところで、ニュートンの運動方程式と等価であるはずで、これも非相対論的、ということになりそうな気がするが、、、大丈夫なのでしょうか?

とはいえ、これを議論していると話が先に進みませんので、当分は、非相対論的なシュレディンガ―の波動方程式に限定して考える、ということといたしましょう。そして、これを相対論に適合する形に話を広げる際には、ラグランジアンやハミルトニアンの妥当性に関しても改めて検討を加える、ということにして、話を先に進めましょう。

さて、ハミルトニアンの定義からシュレディンガ―の波動方程式を導出いたしましょう。まず、ハミルトニアンの定義を次のように書き直します。ここで、運動エネルギーを運動量で表しておりますが、これは、非相対論的置き換えとなっております。

(14)   H = T + V = p2 / 2 m + V = W

ここで、ハミルトニアン H は系の全エネルギー W を示します。4元ベクトルにおきまして、エネルギーが時間に、運動量が空間に対応していることを思い出して、それぞれが状態ベクトル(波動関数)Ψの時間微分、空間微分で表されていると仮定いたしますと、シュレディンガ―の波動方程式が導出されます。

(15)   -(h' / i) ∂Ψ/∂t = (h'2 / 2 m) ∂2Ψ / ∂x2 + V Ψ

ここで、h'はプランク定数を 2 πで割った定数を表します。なぜこんな定数が入ってくるのか、はたまた、何故に左辺に虚数単位 i が入ってくるのか、そもそもが非相対論的議論をしているところに、4元ベクトルの対応関係をなぜもってくるのか、などということは、ここでは突っ込まないことといたします。

きちんとした議論は、ワインバーグの「場の量子論」に詳しいのですが、こちらは分厚い書物で、しかも6巻もの。なんと、アニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」DVDを全巻そろえるのと同じくらいお金がかかる上、ぜんぶ読むには何年かかるかわからないという、たいへんな代物です。

まあ、一応は私、こちらも読み始めてはいるのですが、いつになったらその結果をご報告できるのか、現在のところ、まったく見通しは立っておりません。とはいえ、ある程度はみえておりまして、結局のところ、相対論的にきちんとした方程式は、クライン・ゴルドンの波動方程式なのだが、これは一筋縄では解けず、シュレディンガ―の波動方程式が良い近似を与えた、という歴史的背景がある様子。

量子力学を書き直してやれ、などという野望は、先のなかなか見えない、おそらくは挫折するであろう、ハイリスクな試みではありそうです。ま、うまくまいりましたら拍手ご喝采、ということにしておきましょう。


虚数時間の物理学、まとめはこちらです。

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