ファインマンの「光と物質のふしぎな理論」を読む

本日読みます2冊目は、がらりと趣向を変えまして、ファインマンの「光と物質のふしぎな理論」です。

同書は、数学を使わずに量子力学の概念を正しく解説したものです。

同様な書物は巷にあふれておりますが、これらとまったく異なる点は「正しく解説した」という点でして、おかしなたとえでわかったような気にさせるのではなく、量子力学の理論を正確に記述しつつ、数式の使用はできる限り避ける、という方針で書かれた書物です。

そういうわけですから、この本は文系の方、特に哲学を志す人には読んでいただきたい一冊です。このあたりを押さえておきますと、この世界の物理的な部分に関しましても、認識を新たにしていただけるのではないか、と思います。

さて、内容のご紹介とまいりましょう。

同書は1983年にファインマンが行いました4回の講演内容に基づくもので、同書の構成もこの講演の回を追って章立てされています。

「1.はじめに」では、まず、量子電磁気学(QED)が今日の物理現象を恐ろしく高い精度で近似しているということを述べます。そして、物理的現象で量子電磁気学で説明されない現象は万有引力と原子核物理のみで、その他もろもろの現象、化学反応や材料の性質など通常我々が目にするたいていの現象は量子電磁気学で説明できる、と述べます。

光が粒子として振舞うことは、単一の光子を検出できる光電子増倍管で確認されます。この装置は光子を受けると雨だれのような音を出すのですが、弱い光を当てると音が小さくなるのではなく、音の出る回数が減る、というわけです。

光をガラスにあてて反射光をこの装置に入れますと、ガラスの厚さによって反射する光の比率が変化いたします。

この現象を説明するのに、ファインマンは光を小さな矢印(ベクトルですね)にたとえるのですね。矢印の長さの自乗が確率を与え、たとえば反射率が4%なら矢印の長さは0.2といたします。また、この矢印はストップウォッチの針のように、ぐるぐると回転しております。

この矢印は確率振幅で、大きさと位相を持つのだといえば話が早いのですが、数式を使わない、という縛りがかえって話をややこしくしているようにも思えます。

ある点から別の点までに光が到達する確率は、この間に光がとりうるすべての経路に対してこの矢印を求めてその和をとったものの自乗で与えられます。

で、ガラスの厚さが異なりますと、ガラスの表と裏で反射してくる光の矢印の回転が変化するため、その和は大きくなったり小さくなったりする、というわけです。矢印の回転速度は光の波長(色)によって異なるため、シャボン玉や水面の油膜は七色に輝いて見えるのですね。

これで第1回の講演は終わり、次の「2.光の粒子」へと話は進みます。

第2回の講演では、まず、光の反射を取り上げます。普通の理解では、反射光は入射角と反射角が等しい、ただ一つの経路を通る、というものですが、ファインマンは、実は光は鏡のあらゆる場所で反射してくるのだ、と説明します。で、入射角と反射角が異なる部分では、矢印の向きが変化しているためほとんど打ち消しあう、というのですね。

これが量子力学の量子力学らしいところでして、打ち消しあっているならそこでの反射はないということではないか、などといいたくもなるのですが、ここはおとなしくお話を聞くことといたしましょう。

鏡の一部を取り除き、打ち消しあいをしないようにいたしますと、入射角と反射角の異なる部分での反射も見られるようになります。これが回折格子と呼ばれるものです。なるほど、確かにファインマンの言うことにも一理ありますね。

同様の原理で、屈折やレンズの作用、あるいは光が直進する理由を説明いたします。

いろいろな経路を通った光の強さは、矢印を足し合わせることで求まるのですが、何回も反射した場合など、一つの経路にいくつかの過程が含まれる場合、矢印の掛け算が行われます。この計算は、矢印の長さを掛け合わせ、矢印の向き(角度)を足し合わせることで行われます。

これで第2回の講演は終わり、次の「3.電子とその相互作用」へと話は進みます。

第3回から、いよいよファインマンのファインマンらしい話が始まります。ファインマンダイアグラムの大活躍、というわけです。確率振幅について十分なご理解のある方は、第3回講演の部分から読み始めても良いかもしれません。

まずはこれです。

さてそれでは、光と電子に関するすべての現象のもととなる三つの基本作用をここに披露することにしましょう。

作用1 光子がある場所から他の場所へと移動する。
作用2 電子がある場所から他の場所へと移動する。
作用3 電子が光子を吸収あるいは放出する。

この作用にはそれぞれ振幅(矢印)があり、その振幅は一定の規則に従って計算することができます。この規則(あるいは法則)が何であるかはまもなくお話しますが、とにかく全世界はこの法則の上に成り立っているのです。(むろん例のごとく、原子核に働く力と重力は別ですが。)

そして、縦軸に時間、横軸に位置をとって、野球のボールや光の軌跡を表示いたします。

さて、電子がA点からB点まで移動する確率E(AB)は、一飛びに移動する確率P(AB)のほかに、他の点C, D, ...を何段階か経由して移動する確率との和となります。ここで、他の点を1回経由するごとに、その確率にはn^2が乗じられます。

この中間の点は、電子が光子を吸収・放出することでも生じます。この過程の振幅はnの代わりにjが使われ、その大きさはおよそ-0.1ということです。で、電子と光子の相互作用の振幅を、「電荷」と呼ぶと。ふうむ、、、

ともあれ、電子がある点から他の点に行くまでには、直接のパス以外に、光子とさまざまに相互作用する無数の経路が考えられるのですが、相互作用の回数が増えるごとに、確率振幅はおよそ1/100に減少しますので、相互作用の回数の少ない方から順に計算していくことで、必要とされる精度の近似値を求めることができるのですね。

さて、ここで、「時間を逆に進む電子」、という概念が出てまいります。電子のパスの一つに、光が電子と陽電子を生成し、その陽電子と入射した電子が対消滅して光子を生成するというパスがあります。この図形は、電子が光子を放出して方向を変え、過去に遡って光子に衝突し再び未来へと向かうというように解釈することもできまして、こうすれば、電子は一つながりのパスと考えることができます。実際、確率振幅の計算は、そのパスも含めて行うのですね。

でもこれは、あくまで説明の上でのものであって、実際の電子が過去に向かって進むわけではありません。そもそも、ファインマンダイアグラムは、縦軸が時間であって運動はすでに図形上に固定されております。

運動というものは、人の意識が過去から未来へと移動しながら物理現象を観測することで認識されるもの。上の図形で、陽電子のパスを未来から過去へと遡って人の意識がトレースすれば、他の電子のパスと一つながりとみることもできる、というのが正しい解釈です。

まあ、この部分のファインマンの書き方は、確かに不適当ではあるのですが、ファインマンのことですから、このくらいのことは十分に理解した上で、冗談交じりにこのような記述をしたのではなかろうか、と私には思われます。(なおこの解釈なら、対生成・対消滅が作用3で表せるのですが、これは邪道です。)

しかしこれを文字通りに受け取る人たちも存在するわけで、反粒子は時間を遡るのだ、などという頓珍漢な記述もある種の書物では目にすることがあるのですね。時間を遡るのは、粒子ではなく、図上で粒子を追いかける人の意識である、という点だけはお間違いのないようお願いいたします。

さて、ファインマンの講演は、物質と光子の相互作用に話が進みます。そして、ガラス板の表面と裏面で反射する、というこれまでの説明(一般的な理解もそうですが)は実は物理的には正しくなく、ガラス内部のあらゆる場所で反射が生じており、これらを合計したものが表面と裏面での反射の和と考えたものと同じになるのだ、と説明いたします。

なるほど、確かに光が相互作用するのは物質でして、ガラス板の物質が詰まっているのはガラスの内部ですから、相互作用もガラスの表面ではなく内部で生じているというのは当然の話です。

ただ、金属などでの反射は、表面近傍のごく薄い層で起こっているのですが、こちらは高密度で相互作用をする材料だからそうなるのですね。このあたりのことにも言及していただくと、余計なことを考えなくて済むような気がいたします。最近のホットな部分でもありますし、、、

最後に、これまで無視して説明してまいりました偏光(スピン)に関して簡単に触れて、3回目の講演を終えます。

第4回講演は「未解決の部分」と題するものです。まずは、ファインマンが朝永振一郎らとともにノーベル賞を受賞いたしました繰り込み理論の扱っております無限大の問題に簡単に触れます。ファインマンの説明は実に単純でして、積分を極限までは行わず、その手前で打ち切るというもの。本当にこんな簡単な話なのでしょうか? これは少々疑問の残るところではあります。

第4回講演のお話の中心は、量子色力学(QCD)。クオークの理論により、素粒子は単純な表に纏め上げられます。このクオークの話をこれほどあっさりと解説するのは、さすがはファインマンなのですが、この部分はもう少し詳しい解説がほしいところではあります。もちろん、講演時間の関係もあってのことだとは思いますが。

これらの性質(質量の比等)がなぜそうであるのかはわかっておらず、表の項目がどこまで伸びるのかを含めて「未解決の部分」というわけです。ただし、クオーク間の反応もファインマンダイアグラムで表すことができ、量子電磁気学はクオークの振る舞いを記述する上で参考になるのではないか、とファインマンは述べます。この部分、我田引水的な印象を受けられる方がおられるかもしれませんが、事実ですからしかたありません。

最後に、大きな未解決分野として重力がある、と述べてこの講演を終了いたします。

さて、同書を読みましての感想ですが、現代物理学の中心をなします量子電磁気学(QED)と量子色力学(QED)をこれほどまでにわかりやすく解説した書物は他に見当たりません。さすがはファインマン、きちんと物理学を理解した人が入門書を書くと、素人にもわかりやすい書物ができるという好例ではあります。

この本は、上に述べましたように、多少問題があると思われる記述も含まれて入るのですが、特に数学的素養に乏しい人には現代物理学の最先端を理解する上で良書であると思われます。

特に、量子論を扱う多くの物理学者は、自信たっぷりに波動方程式を扱っておりまして、これぞ自然界の真の姿である的な記述がままみられるのですが、ファインマンは常に一歩引いており、なぜこんな理論が成り立つか、という疑問を常に抱いているところが好感が持てるのですね。

同書の記述から、これらの理論をファインマンは、自然界の真の姿を与えるものではなく、確率を与える技術的手段なり計算手法とみなしている、との印象を私は受けました。なるほど、そうであるなら、打ち消しあう部分にも確率振幅は存在するのだといった首をひねりたくなるような部分も納得です。

量子論の哲学的な把握はなかなか難しいのですが、さしあたりは量子力学は便利な計算手段であるという、道具主義で考えておくのが良いかもしれません。その場合でも、では真の姿はいったいどうなっているのだ、という疑問が残るのですが、この世の中にはわからないこともあるのだよ、といって逃げるしか手がないような気もいたしておる次第です。

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