ゼノンのパラドックスに関する小話

先日から、大森荘蔵氏の「時間と存在」を読み始めております。

この本を読みました直接のきっかけは、昨日のブログにもご紹介いたしました養老孟司氏の「唯脳論」に対抗いたしまして大森氏が唱えました「無脳論」の正確なところを知っておきたかったからです。

まあ、これにつきましては最初に一読し、以前のブログで孫引きでご紹介した内容がほぼ妥当であることを確認しております。

しかし、大森氏の「時間と存在」も、なかなかにユニークなものでして、読んでおりますと時間の経つのを忘れてしまいます。で、表題の「ゼノンのパラドックス」ですが、アキレスは亀を追い越せない、というよく知られたパラドックスです。これを見て最初に思いましたことは、まだこんなことを議論している人がいたんだ、という素朴な驚きです。

ゼノンのパラドックスは、無限大に関する知識が乏しい時代のパラドックスなのですが、実際問題といたしましてはそんな知識も要りません。仮にギリシャ時代であったとしても、以下のような論理を展開すれば簡単に論駁できると思います。まあ、少なくとも、ピタゴラスのような方であれば、同じような論を唱えても不思議ではないのですね。

で、問題を簡単にするために、アキレスの走る速度は亀のきっちり2倍であるといたします。そして、亀が最初にいた地点までアキレスが走るに要する時間を30分であるといたします。

アキレスをただで走らせるわけにもいきませんから、走った時間に応じて報酬を出すことといたします。走ればカロリーも消費いたしますので、走った時間に比例してホールケーキをご提供することにいたしましょう。1時間走れば丸ごとひとつ、30分走れば半分差し上げましょう、というわけです。

この私の条件を聞いて、アキレスは内心にんまりしたと思います。何しろ彼は教養人であり、ゼノンのパラドックスを知っております。「こいつはカモだ。俺は未来永劫ケーキを食べ続けることができる」そうアキレスが考えたとしても不思議はありません。

さて、アキレスは30分間走り、最初に亀がいたところまでまいります。私はケーキの半分をアキレスに差し上げます。亀は当然先に進んでおりますので、アキレスは再び走り、亀のいたところまで到着いたします。そのとき走りました時間は15分間、アキレスはケーキの1/4、すなわち残っておりましたケーキの半分を食べることになります。

これをそれぞれのアキレスの走り始めた瞬間に亀のいたところまでアキレスが到着するごとに繰り返すのですが、その度にアキレスが食べますケーキは、私の手元に残っていたケーキのちょうど半分だけなのですね。

ついには、アキレスが食べますケーキはほんのちょっぴりとなります。さすがのアキレスもこれではらちがあかないと気づき、私にこういうのですね。

何度走っても、俺が食えるのは残ったケーキの半分だけ。これでは、いくら走っても、ホールケーキをひとつ食うことはできないではないか。それではこうしよう。次の回には、もと亀のいたところなどというけちな了見は捨てて、きっちり亀を追い越してしまおう。その代わり、亀を追い越した暁には、残りのケーキを全部食わせろ

もちろん私に異を唱える理由はありません。何しろ私の計算では、アキレスが亀を追い越すなら、そのとき走った時間はちょうど残りのケーキのすべてを差し上げるに値する時間であるからです。

で、次の回にはアキレスは亀を追い越し、ほんのちょっぴり残っていたケーキを全部アキレスが食べてしまった、というわけです。

さて、アキレスが走った時間とケーキを食べた量は対応しておりまして、最初のやり方では、いくらやってもケーキひとつ分、すなわち時間にして1時間を越えることがないのですね。だから、アキレスが亀を追い越せないという言説は、1時間以内にはアキレスは亀を追い越せない、という意味であり、いつまで経っても、すなわちどれほどの時間が経過しても追い越せない、というわけではない、というわけです。

似たような話を北杜夫氏が、確かドクトルマンボウ航海記の中で書いておりまして、そこで北氏が実験されたのはウイスキーを永久に飲み続ける技

これは、水割りを半分まで飲んだところで、水で半分に薄める、というやり方でして、確かに水割りはだんだんと薄くなるのですが、いつまで経っても水割りはなくならない。暇で暇でどうしようもない航海中にトライするには最適な飲み方であるようにも思われます。

で、北氏の実験結果は、といいますと、ある程度水割りが薄くなった時点で、これ以上薄くすることには耐えられず、全部飲んでしまった、というわけです。

ゼノンのパラドックスが成り立たないことは実験的にも立証されていたのですね。

もちろんこれは、大森荘蔵氏の「時間と存在」を読みながらつらつらと思いついた小話でして、数学的、あるいは哲学的には、もっと難しい論理を展開すべきであろう、とは思います。

専門家の方には、これを読んでお怒りになったりしないよう、よろしくお願いいたします。

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