安倍氏の金融政策をめぐって(その2)

この話題につきましては昨日も議論いたしましたが、安倍氏は多少軌道修正を行っております。さすがにこれだけ集中砲火を浴びれば考え直すのも無理はありません。

修正された主なポイントは、物価上昇率の目標を3%から、2~3%にトーンダウンしたこと、日銀による国債購入を直接引き受けから市場購入へと変更したこと、の二点でしょう。

このようなやり方であれば、政府と日銀が相当な腹を決めてかかれば、穏やかなインフレもないわけではなさそうです。つまり、次のようなありえる展開に対して確実に手を打つこと、途中で怖気づいたりしないと覚悟を決めてかかることです。

第一に、政府が国債を大量に発行すれば、国債の消化が難しくなり、国債価格の下落(=長期金利の上昇)を招きます。これは、特に国債を保有している金融機関にとりましては大きな問題ですから、市場経由での日銀の国債買い入れを無制限に行うことで、国債価格を維持することになります。

第二に、政府が国債を発行して得た資金で巨額の公共投資を行うことで、国内に供給される資金が増加し、円安と物価上昇が生じることが期待されます。これはこの政策が目的とすることであり、そのこと自体は問題ありません。

第三に、物価上昇率が行き過ぎた場合は、金利を上げてインフレの進行を抑える必要があります。金利が上がれば国債相場は下落し、金融機関の保有する国債に評価損が発生します。これへの対応も、日銀の国債買い入れでして、相場下落の先手を打って国債買い付けを行えば、国債相場も下落することはありません。

あらかじめ覚悟しておくべき点は、第一、第三での日銀の国債買い入れ総額が巨額になるということ。第一段階では、200兆円ともいわれている強靭化計画に対する支出増に見合う国債発行増が予想されるわけですから、200兆円程度の買い入れが必要になるであろうと思われます。これにつきましては安倍氏も想定済みでしょう。

一方、第三段階での日銀の国債買い入れは、原理的には発行済みの国債をすべて買い入れる必要が生じ、その総額は1000兆円弱。このキャッシュを紙幣の形で供給いたしますと物価はますます上昇いたしますので、結局は高い金利で借り入れることになります。

ひとつの不安は、国がこの金利を負担しきれるか、という点であると思われますが、物価上昇率を政府がコントロールできるのであればこれはさほどの心配も要らないように思われます。つまり、物価上昇率を多少高めにコントロールすればよいわけで、実質的な債務は物価の上昇とともに軽減いたします。

わが国の物価上昇率が国際的な水準から多少高めに安定してくれますと、為替は円安となります。この結果、輸出産業は息を吹き返し、法人税も増加いたします。これはわが国にとりましては願ってもないことなのですが、他国も同様の政策をとりますといわゆる通貨安競争が始まることとなります。

通貨安競争がいかなる影響を世界経済に与えるかは、実のところよくわからないのですが、リーマンショック以来、各国は通貨安政策を採っているようにも見受けられ、わが国だけが乗り遅れている状況であるのかもしれません。もしそうであるならば、上のような展開は国際的な競争条件を正常化するという意味で肯定的に評価されるかもしれません。

いずれにいたしましても、安倍金融政策が開始されますと、莫大な資金を動かすことを覚悟しておく必要があり、そのコントロールには細心の注意が必要です。このためには、専門家による十分な議論と金融・経済のシミュレーションも必要でしょうし、他国がわが国の政策をどのように受け止め、どのような反応が生じるかという点につきましても十分な情報収集が必要であるでしょう。しかし、十分な準備と覚悟さえあるならば、この政策は効果があり、やる価値もあるように私には思われます。

さて、この大勝負、まずはリーダーが腹を決めてかからなければいけないのですが、果たして安倍さんにそれができるでしょうか。私にはこの点が少々不安に感じられるのですが、、、


ちょっと追記しておきましょう。

上の議論では、物価上昇率と長期金利の関係について深く論じなかったのですが、住友信託の資料を見ますと、低金利の期間では、この双方はほとんど連動しており、実質金利はほぼゼロという形になっております。そうなりますと、物価の上昇による実質的な債務の軽減は期待できない可能性もあります。

その意味するとことは、日銀による無制限の国債買い入れは、非常に危険なことであるかもしれない、ということでして、ひとつ間違いますと、政府は国債の金利負担に堪えられなくなる可能性もある、ということです。

もちろん、上で行いました議論は極端な議論でして、実際には経済状況を見ながら少しずつ国債を発行し、日銀の国債買い入れも少しずつ行うという形をとるのでしょう。しかし、その効果が目に見える形で現れるようになった時点で、果たして加速的な国債の売りが生じないかといわれますとその可能性は否定できず、結局のところすべての国債を買い取る覚悟(といいますか、最悪の場合に備えての準備)が日銀には必要でしょう。

また、日銀が国債を買い入れる主な目的は金融危機の回避にあるのであって、その目的であれば残存期間の短い国債のみを買い入れることでほとんど目的を達成することができます。郵貯は長期債も大量に抱えているのですが、幸い郵貯は政府の元にあり、政府が資金を注入することで危機を回避することも容易でしょう。

その他の方策といたしましては、以前議論いたしました、政府紙幣という手法もあります。これは、国債を発行して日銀に買い取らせることと同様の効果を生じる一方で、国債を発行した場合に生じる金利負担が生じないというメリットがあります。また、政府紙幣発行に伴うリスクは政府が負うこととなり、日銀が国債を買い入れる場合に生じる日銀のリスクという問題を回避することもできます。

というわけで、安倍金融政策の大勝負は、相当なリスクが伴いますが勝機もないわけではない。一か八かやってみる価値もあるといえるでしょう。先に引用いたしました資料では、アゴラの主張とは異なり、期待インフレ率と失業保険申請者数の間には負の相関があるとの結果です。安倍金融政策は、わが国の雇用問題にも一定の効果があることは、期待してもよいのではないかと思われます。

ただし、その勝負、ひとつ間違えますとわが国の経済に極めて深刻なダメージを与えます。この大事な勝負を任せる代打ちが、安倍さん、というところがいまひとつ、もろ手を挙げて賛成する心境にもなれないのですが、、、

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