小保方晴子「あの日」を読む

本日は、ちょっと気恥しいのですが、小保方晴子氏のベストセラー(?)本であります「あの日」を読むことといたしましょう。

この書物、STAP細胞を巡る大騒動の渦中の人物(しかも美女)が書いたということで、最初からベストセラー狙いの「お騒がせ本」とでもいうべき分類がなされても致し方ないのですが、書かれております内容は、再生医学の最先端の有様がまざまざと記述されたかなり専門性の高い内容ですし、大々的な発表がなされた後の騒動につきましても、今日の研究機関やマスコミの抱えております問題がいろいろとわかってくる、非常に参考になる書物であるといえるでしょう。

この手の本では、大王製紙前会長でありました井川意高氏の書かれました「熔ける」なども読んだりしておりますが、あまりの内容のくだらなさに、ブログでの紹介は没としております。これに比べますと、「あの日」のクオリティの高さは「月とすっぽん」という言葉がしっくりくるくらいの違いがあります。

同書に対しては世間的には「色物」的印象を与えているように思われますが、研究開発管理や技術経営(Management On Technology)を研究されている方々には必読書とすらいえそうな書物ですし、STAP問題を巡っていろいろと発言をしていた方々にも読んでいただきたい書物ではあります。

ちなみに私はその両方ですから、少々気恥しい気持ちを押さえて、同書を手に取った次第。本日のこの記事も、同書に対しては学術的かつまじめに取り組むことといたします。

同書の内容につきましては、一言でまとめることは非常にむずかしいため、ここでは章立てとおおよその内容について簡単にご紹介しておきましょう。

第1章:研究者への道
第2章:ボストンのポプラ並木
第3章:スフェア細胞
第4章:アニマルカルス

これらの章で、早稲田、女子医大、ハーバード、理研と動きながらおこなわれた小保方氏の研究の内容が紹介されます。後にSTAP細胞と呼ばれることになるアイデアは、スフェア細胞、アニマルカルスと名前を変えながらその性質が研究されてまいります。

第5章:思いとかけ離れていく研究
第6章:論文著者間の衝突

ここで最大のテーマとなりましたのが論文をネイチャーに載せること。このために種々の実験が行われるのですが、小保方氏に見えない部分も多々出てまいります。ここまでが、再生医療に関わる技術的内容で、これ以降の章はSTAP細胞を巡る大騒動に関わる記述となります。

第7章:想像をはるかに超える反響
第8章:ハシゴは外された
第9章:私の心は正しくなかったのか
第10章:メディアスクラム
第11章:論文撤回
第12章:仕組まれたES細胞混入ストーリー
第13章:業火
第14章:戦えなかった。戦う術もなかった
第15章:閉ざされた研究者への道

この第7章が、かっぽう着やラクロスが話題になりました最初の理研の発表、そしてそれ以降が、様々な問題が表面化いたしましたSTAP細胞を巡る大騒動の顛末を内側から描いたものです。

これらは、それなりに興味深いものがありますが、小保方氏の側から書いたものであり、他の人々にはそれぞれの言い分もあるであろうということは念頭に置いて読まなくてはいけません。他の人々にとりましては、こんな騒動に巻き込まれるのはもうこりごりと考えますこともまことにもっともで、彼らが何も語らないことも非難できるようなことではありません。

と、いうわけで同書の内容についてご紹介してまいりました。これを読みましての私の感想は、以前書きましたこと(その1その2)からほとんど変化はありません。つまり、

最初に誤解を招かないように私の基本的スタンスを述べておきますと、実際のところの小保方氏が何を考えて何をしたのかということに関して、可能性は三つあり、現時点ではそのいずれであるかの確証は得られていない、というのが基本的認識です。この三つの可能性といいますのは、(1)小保方氏は意図的にデータを捏造し、ありもしないSTAP細胞をあると嘘をついている可能性、(2)小保方氏は勘違いをしており実際にはSTAP細胞は存在しない可能性、(3)小保方氏は正しくSTAP細胞を作成しており、論文作成時にミスをしたことのみが問題である可能性、の三つです。

ということですね。

なにぶん、同書はあくまで小保方氏の手になる書物であり、内容を読む限りでは怪しげな記述も見当たりませんし、明らかな嘘も見当たりません。普通に読む限りでは、きわめて率直に事実をありのままに語っているようにも思えます。しかしながら、これはあくまで小保方氏が感じた内容を書いているのであって、小保方氏の疑っております内容がそのまま真実である保証はありません。また、小保方氏が何かを隠している可能性も否定できませんし、うそを書いている可能性だって否定できないのですね。

同書を読む限りでも、小保方氏が相当にそそっかしい人物であることは確かでしょう。提出する論文を間違えたり、写真を間違うなんてことは、普通の人ならあまりしない。研究者としてはあるまじきミスであるとも言えます。だから博士号取り消しや論文撤回は、全く不当な処置であるとも言えません。

でも、他の人にもいろいろな問題があったにもかかわらず、責任を小保方氏一人に押し付けてトカゲのしっぽ切りをはかったなどということはいかにもありそうな話です。なにぶん近年では、研究予算も削られており「競争的資金」などという言葉も語られております。成果は欲しいが不祥事はもっと困ると多くの人が考えるのも致し方ありません。

もう一つは、一般の人は学者研究者というものは高い志をもった立派な人であるなどと考えがちですが、実際のところは普通の人であり、生活も考えなくてはいけないし、欲もある。心の奥底には、多かれ少なかれ、どろどろしたものを抱えており、それが閉鎖的な研究環境の中では外にまで出てきたところでさほど驚くにはあたりません。

もちろん、小保方氏といえども、そのどろどろと無縁の存在ではなく、実際のところがどうであったのかは闇のなかというしかないのですね。

とはいえ、同書から受けた一つの新しい印象は、ひょっとするとSTAP細胞は事実存在するのではないか、ということ。もし小保方氏の見方が正しく、そうであったといたしますと、これはいずれ現れてくるであろうということなのですね。

つまり、小保方氏が正しいのであれば、いつの日にかSTAP細胞は日の目を見るはずです。その時には、全ての評価が逆転する。小保方氏も、将来に希望をもち続けたらよいのではないか、というのが同書を読んでの私の感想でした。

もちろんそれは、小保方氏が真実を語っているなら、との条件付きではあるのですが。


2/14追記:LITERAというサイトに、同書の紹介検証記事(その1)(その2)が掲載されておりました。

この検証では、著者のエンジョウトオル氏は推理を発展させて、小保方主犯・若山共犯説を唱えているのですが、これは確たる証拠に裏付けられているものではありません。

まあ、少なくともいずれか一方が関わっていたことは、ありそうなことではあるのですが、他の第三の人物が仕組んだ業務妨害であった可能性もゼロと断言できるものでもありません。実在の研究者が関わっております事件だけに、ここは軽率な犯人断定などをすべきではないでしょう。

これらの情報から一つだけ確かにいえることは、このSTAP騒動におけるマスメディアの行動には、相当な問題があったこと。特にNHKの報道は、放送倫理に触れる疑いが濃厚です。こちらに関しては、きちんとした対応がとられてしかるべきでしょう。


2/16追記:ここで、この件に関して私なりのまとめをしておきましょう。

まず、「あの日」の記述からうかがい知れることは、STAP細胞は小保方氏の長期にわたる研究の中で、徐々に出来上がって来たものであり、多くの研究者がこれに関わっております。すなわち、この技術が全くの虚構ということはあり得ないでしょう。また、理研がこれを取り上げて多くの研究資源を投入したのも、この技術が有望であると考えてのことでしょう。

小保方氏の語っております「STAP細胞」とは、この技術で作られた「緑色に光る細胞」であり、これをマウスの背中に注射してテラトーマなる良性腫瘍が形成されることで多能性を示す可能性を確認しております。これを若山氏が独自の手法で増殖して「STAP幹細胞」としてキメラマウスを作成することで、最終的に多能性を確認しております。

この問題は、いくつかの問題が入り組んで同時進行したため、非常にわかりにくいものとなっているのですが、本筋部分の経緯は次のようなものであったと考えられます。

まず、論文に掲載された写真が小保方氏の過去の論文に使用されたものであり、理研で作成したSTAP細胞のものではなかったという問題。これに関しては、小保方氏の手違いによるものであることを本人も認めております。これが捏造に該当するか否かは重大な問題なのですが、理研において作成されたSTAP細胞に緑色の発光が認められていたなら、事実を偽るものであるとまでは言えません。そして、理研における実験も多くの研究者の中で行われていることから、発光自体は存在したと考えるのが自然です。

一方、明らかとなっております大問題は、キメラマウスの作製に使用された「STAP細胞」として保管されていたサンプルを分析した結果、すべてES細胞であったことです。キメラマウスの作製がSTAP細胞の多能性確認のキモなのですから、この部分は完全に事実とは異なり、この論文は捏造論文というしかありません。追試ができないのも当然の結果といえるでしょう。

STAP細胞とES細胞を入れ替えた者が誰であるかについては、諸説あるのですが、最終的に特定するには至っていないのが現実です。この段階で誰々が悪いなどということは公に語るべきではない、と私は思うのですね。

小保方氏に関しては、「あの日」で述べられた内容に矛盾は認められず、すり替えに関わっていない可能性は否定できません。彼女が疑われることとなりました様々な嫌疑も、その多くは根拠のないものとして後に退けられております。小保方氏が怪しむ若山氏の不可解な行動も、ただただわが身に降りかかる火の粉を振り払うためと考えればわからないでもありません。また、すり替えが他の研究員たちにも可能であったことは、理研の最終調査でも指摘されております。結局、事件は犯人不詳で迷宮入り、というのが現時点での正しい認識でしょう。

で、以下は私の想像ですが、次のようなことがあったのではなかろうか、と考えております。

まず、全くの虚構論文をネイチャーに投稿するなどということはありそうなことではありませんので、最初の時点では、STAP細胞からのキメラマウスの作製に成功したことは事実だったのでしょう。これは、ESからのキメラマウスとは全く異なるとの若山氏の言葉からも推察されます。「胎盤まで緑色に光るマウス」というのがそれですね。

ところが、査読意見で追試を求められた際には、キメラマウスの作製に失敗したのではないでしょうか。STAP細胞からのキメラマウスの作製は、非常に不安定であった、ということですね。これは、STAP細胞が本来持っている性質であったかもしれませんし、実験に際してコントロールされていない未知の要因が強く影響したなどといったことがあったのかもしれません。

この時点で、誰かがSTAP細胞とES細胞をすり替えた、その結果、キメラマウスの作製に成功し、論文はめでたくネイチャー掲載の運びとなりました。これが、現時点で私がありそうなことだと考えるところです。もちろんこんなすり替えが行われている以上、この論文は捏造論文には違いありません。そしてそのすり替えを誰が行い、誰が知っていたのかは現時点では断言することができていない、これが現状ということになります。

もしこの推察が正しいといたしますと、STAP細胞には依然として可能性が残されております。まったく残念なことをしたものだ、というのが私の思いであるわけです


2/25追記:本件、ビジネス・ジャーナルに解説記事が出ております。後編はまだポストされておりませんが、間もなく現れるものと期待しております。

(4/8追記:同じ著者による別記事がポストされております。上記記事の続編は期待薄のようです。ここは、新しい記事の続編に期待することといたしましょう。)

(4/10追記:同じ著者によるもう一つの別記事が公開されました。内容は、これまでに書かれたものとほぼ同じです。新しい情報として、スタップホープページに世界中の研究機関からアクセスがあるとして、STAPの将来は明るい旨の記載がありますが、これはあまり期待しないほうが良さそうです。なにぶん、私が管理しておりますSignal Process LogicのHPにも日本中の研究機関から毎日のようにアクセスがあるのですが、だからといってこの技術が世に広まっているわけではありませんから。もちろん、全く無視されているよりははるかに良い兆候ではあり、毎月アクセス状況をチェックしてはいるのですが、、、)

それにしても、事実を知ろうとせずに小保方氏を批判する人の多いことには、あきれてしまいます。


3/22追記:前記ビジネス・ジャーナル記事の後編をチェックしにビジネス・ジャーナルをのぞいたところこんな記事が出ております。この話題自体かなり古い話ですし、まだ評価が定まったわけではありませんが、悪い予感があたってしまうかもしれません。今後の動向に注目です。


3/28追記:先のビジネスジャーナルの記事の後編、いつまでたっても出てきません。どうもおかしいと思い、著者の「大宅健一郎」氏をサーチしてみますと、どうも正体不明の怪しげな方との印象を受けます。

過去にこんな記事も書かれていますね。その他の過去記事も小保方氏関連ばかり。

もう一つ別のリテラの記事を書かれております「エンジョウトオル」氏も、青木理氏の別名ではないかなどと疑われておりますような、正体不明の方。しかもその内容は、大宅健一郎氏の書かれた内容にかなり重なっております。

さて、一体どうなっているのでしょうね。

小保方氏とSTAP細胞に関しましては、非難派と擁護派に完全に分かれており、冷静な議論をする人があまりいないのが現状であるように思われます。どうも、原子力に関する議論のようで、中間派がいないのですね。

なぜこんなことになってしまうのでしょう。正解のある問題ばかりを解いている受験勉強の弊害でしょうか。世界には、真偽不明の問題もある。人はこのことに気付かなくてはいけません。

かのファインマンも語っておりました。アンサートニティ(不確かさ)こそ、科学研究の最も重要な要素である、と。確かなことなら研究する必要もありません。真偽不明の問題があることに気付くこと、これが新しいものを作り出す第一歩なのですね。

もしも受験勉強がこれを否定する原因などということになりますと、これは大問題であるように、私には思われます。


3/31追記:神戸新聞NEXTが伝えたところによりますと、小保方氏はSTAPの作り方を解説するHPを開設したとのことです。

小保方氏が作られたとされておりますSTAPホープページは、現在、アクセスできないのですが、いずれ読めるようになりましたら、内容を検討することといたしましょう。

それにしても、英語で公開するとは、小保方氏もやりますねえ。これまでの経緯を見る限り、少なくとも学術的分野に関しては、日本人など相手にしても無駄と考えること、まことにごもっともではあります。


4/2追記:STAPホープページですが、現在読もうとすると“502 Bad Gateway”となって読むことができないのですが、ビジネス・ジャーナルの記事によりますと、なんとこのページ、サイバー攻撃を受けていると。(現在は、不安定ながら、読むことができるようになっています。)

STAPの闇、まだまだいろいろとありそうです。

さて、当該のページですが、エラーが出たときには再読み込みを繰り返すことで、何とか全部読むことができました。

基本的には、STAP細胞の作り方を懇切丁寧に解説したもので、さしあたりは自家発光と異なる発光現象を確認するところまでは再現性の良い実験ができそうですし、良性腫瘍を作るところも(過去の実験ですので)できると考えて良さそうです。

問題は、これからキメラマウスを作ることができるのかできないのかという点なのですが、胎盤まで緑色に光るキメラマウスというのが決め手となりそうで、この話が事実であるか否かが重要なポイントということになります。

「あの日」などを読みますと、この部分では相当にてこずっていた様子がうかがえ、これまでの実験手順では高い再現性は得られていないものと思われます。この問題を誰が突破するか、これが(STAP細胞が存在する場合の)STAP成功の鍵となりそうです。

ここまでオープンにしておれば、STAP細胞が存在するものであるならば、誰かが成功してくれそうな気もするのですが、、、


4/10追記:この件に関して、小保方氏に批判的なBlogos記事が出ておりますのでご紹介しておきます。

小保方氏のHPが、撤回されたネイチャー論文が正しくSTAPはできたと主張するものであれば、このような批判はごもっともなのですが、肝心のキメラマウスの部分は小保方氏の知りえないところであり、小保方氏のHPがその前段階に関する可能性を示しているものであると解釈するなら、この批判は少々的外れであるように思われます。

ここは、Blogos記事にコメントを付けても良いところですが、この話は既に非常に複雑な状況となっており、短い言葉でコメントを付けることは極めて困難と思われます。ここは、こちらでの書き込みに止めておきたいと思います。


4/11追記:結局付けてしまいました。ちなみに、「船団」は「剪断」の誤りです。

それぞれのコメントに付けられた「支持する」の数をみますと、小保方バッシングのコメントに支持が集まっておりますね。まあ、そういう風潮であることは、私も大いに理解しておりますとも。