ボルン著「アインシュタインの相対性理論」を読む

昨日のブログで、一般相対性理論についてちょっと触れたことから、そういえばアレはどうなっているのだろう、と気になりまして、大昔の本を引きずり出してまいりました。

1. 同書について

本の名前は「アインシュタインの相対性理論」、著者はマックス・ボルン、オリビア・ニュートン・ジョン("Have You Never Been Mellow"などを歌っている方ですよ)の祖父にしてノーベル賞を受賞した理論物理学者です。まあ、このくらいの人になりますと、ちゃんと物理学を理解して本を書いているだろう、と安心感を持って読むことができます。

ところが、この本、現在絶版中でして、アマゾンではユーズドが新品の定価の倍で売られています。なぜこういう良書が絶版中なのでしょうかね。

2. 関係説と限定された絶対空間

この本のすぐれた点は、権威におもねないことです。ニュートンの物理学に対して関係説が対峙していたことを先日のこのブログでご紹介いたしましたが、同書も、ニュートンの絶対座標に関しましては、以下のように疑問を呈しております。

絶対空間と絶対時間が、“他の対象に関係なく”存在するという、はっきりとした言い方は、ニュートンのような心がけをもった研究者の言い分としては奇妙にみえる。というのは、彼はしばしば現実的な、観測で確かめうるもののみを研究したい、と強調していたからである。“わたしは仮説をつくらない”というのが彼の簡潔な断固たる表現であった。しかし、“まったく外部の対象と関係なく”存在するものは確認しうるものでもなく、事実でもない。ここでは明らかに、未分化な意識から生じた概念が反省を経ずに客観的な世界に適用されている。この問題はのちほど詳しく研究することとしよう。

原著のこの部分は次の通りです。

The definite statement, both in the definition of absolute time as in that of absolute space, that these two quantities exist "without reference to any external object whatsoever" seems strange in an investigator of Newton's attitude of mind. For he often emphasizes that he wishes to investigate only what is actual, what is ascertainable by observation. " Hypotheses non fingo," is his brief and definite expression. But what exists "without reference to any external object whatsoever" is not ascertainable, and is not a fact. Here we have clearly a case in which the ideas of unanalysed consciousness are applied without reflection to the objective world. We shall investigate the question in detail later on.

これは56ページからの引用ですが、「のちほど詳しく研究」というのが68ページから節を改めて、「6.限定された絶対空間」として議論されます。

結論から言えば、互いに等速直進運動している座標系(慣性系)は、いずれにおいても同じように物理法則が成り立ち、いずれが絶対座標系であるかという判定はできません。と、いうわけで、結論部を引用いたしますと、次のようになります。

こうして古典力学の相対性原理は、つぎのような形になる。

互いに相対的に並進運動を行っている無限に多くの等しく正当な系―慣性系―が存在し、これらの系では力学の法則はその単純な古典的な形式のままで成立する。

ここで私たちは、空間の問題が力学といかにしっかり結びついているかをはっきりと見る。空間がそこに存在し、物体にその形式を押しつけているのではなく、物体とその物理法則が空間を決定するのである。この見方が、いかに着々と地歩を固めていき、ついにはアインシュタインの一般相対性理論でその頂点に達するかを、私たちはやがて知るであろう。

原文は以下の通りです

The principle of relativity then assumes the following form :

There are an infinite number of equally justifiable systems, inertial systems, executing a motion of translation with respect to each other, in which the laws of mechanics hold in their simple classical form.

We here see clearly how intimately the problem of space is connected with mechanics. It is not space that is there and that impresses its form on things, but the things and their physical laws determine space. We shall find later how this view gains more and more ground until it reaches its climax in the general theory of relativity of Einstein.

3. 空間を決定するもの

さて、ボルンのこの言葉、これも少々妙なところがあります。「物体とその物理法則が空間を決定する」という言い方は、以前のこのブログでご紹介しました「関係説」を髣髴させるものがありますが、相対論といえども座標系の中での物体の運動を記述するもの。その座標系とは一体何か、という疑問は依然残っております。

これに対する私の考え方は、どれほど正しいのか、絶対的な自信があるわけではありませんが、「観察者の存在」というもの。特殊相対性理論を語る際にも、「静止座標系から見れば」などの文言が入りまして、極端な場合には「観察者に固定された座標系」などという表現に出会うこともあるのですね。

私の考えによりますと、座標系は観察者の主観の中に存在するものであり、宇宙には空間とその中で運動する無数の物体があるだけです。人はこれを記述するにあたり、適当なところに原点を取り、適当な方向(ま、直交していることは条件ですが)にそれぞれの座標軸を定め、こうして規定される座標を用いて自然現象を記述している、というわけです。

4. ボルンのミンコフスキー的相対論解釈

本の内容紹介を続けましょう。次に、特殊相対性理論ですが、これに関しましては、ミンコフスキーの4元時空を高く評価いたします。ミンコフスキーの4元時空に関しましては、少々別の形でこのブログでも取り上げました。

つまるところ、この世界は3次元であるというのが古典的な考え方なのですが、ミンコフスキー流には、3次元空間に虚数で時間軸を加えた4次元の世界、4元時空である、というのですね。虚数単位の時間軸を導入することで、ローレンツ変換は普通の回転変換と一致し、特殊相対性理論はそのまま成り立ちます。

4元時空に関しては既に詳しくご紹介いたしましたので省略いたします。嬉しいことにボルン氏、時間を虚数としておりまして、時間を実数として空間を虚数とするファインマンの扱いとことなり、私の扱いと同様となっております。ま、これは、いずれを実数としても論理に変わりはないのですが、長さが虚数、というのは実感に反しますよねえ。

5. ボルンによる一般相対性理論の説明

さて、同書は一般相対性理論にも言及しております。ただし、詳細な式の展開は複雑になるので省略する、としておりますが、時空の歪に関する説明は、なるほど、と思わされます。時空の歪、回転する円盤を例に、非常にわかりやすく説明するのですね。大雑把に書きますと、次のようになります。

まず、われわれが二次元的存在で、回転する円盤の上にいたとします。これ以外の世界が見えないとしますと、回転しているということはわからず、ただ遠心力の存在のみを知ることになります。この場合は重力とは異なり、中心から遠ざかる方向に、中心からの距離と質量に比例する力が働く、という物理法則が存在するわけですね。

さて、この世界の半径と周長を測定いたします。その様を、外部から観測したとするとどのような現象が見られるでしょうか。

まず、直径の測定は、移動方向に直行しておりますので、正しく計測されます。しかし、円周の長さの測定は、外界から見ますと速度があるためにモノサシが縮み、周長は直径×円周率よりも、多少長く測定されるはずです。

この事実は、円盤上でも変わりませんので、やはり、周囲の長さは直径と円周率から期待される値よりも多少長い、ということになります。

このとき円盤上の人達はどのように考えるでしょうか。一つのありえる解釈は、この円盤、実は平らではないのではないか、ということですね。その歪の結果、遠心力が発生した、と考えれば、この円盤が回転しているという事実は、遠心力に関しては、無視できることになります。なぜ歪が発生したのか、という問題は依然残るのですが、、、

これが球面の一部ですと、円周の長さは直径と円周率から期待されるよりも短い値となります。一方、ポテトチップのような形、数学者が鞍形(馬の背に乗せる鞍の形)と呼ぶ形、であれば円周は期待値よりも長くなります。数学的には、前者の場合に曲率が正である、といい、後者の場合に曲率が負である、といいます。

なるほど、遠心力が作用している円盤は、負の曲率を持つ、というわけですね。そうなりますと、中心に向かう力であります重力が作用している空間では、正の曲率を持っていても不思議ではなく(きちんと計算するとそうなるようなのですが)、この宇宙は閉じた宇宙である、という結論が出てくる、とそういうわけなのですね。

ま、詳細な計算はスキップしているのですが、何かわかったような気にさせられるお話でした。そういう意味で、この本は、良書、といえるのではないかと思うのですね。

6. 一般相対性理論を理解するには

ちなみに、一般相対性理論をきちんと追いたい方にはWikipediaの解説が充実しております。ま、これを理解するためには、その前にテンソルに慣れ親しんでおかなくてはなりません。Wikipediaのテンソルの記事は、少々そっけなく、ちゃんとした本で学んだ方が良いかもしれないのですが、この手の本は、初心者には非常に読み難いのが常である、という問題があるのですね。

ま、わかっている人にはすらすら読めるのでしょうが、そんな人には、本を読む必要がない、必要があるのはわかっていない人なのだ、ということに著者がきちんと配慮してくださると大変に宜しいのですがね。

と、いうわけで、一般相対性理論に関する完全な理解は、今回もお預け、ということになった次第です。ま、こんなことまでわからなくても、大して困りはしない、ということもまた事実ではあるのですが、、、


虚数時間の物理学、まとめはこちらです。

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