テンソルによるベクトルの数値表現と虚数時間

最近、虚数時間のまとめ記事「虚数時間の物理学:ローレンツ変換とミンコフスキー空間」に、虚数時間を使わないやり方では、テンソル表記を基底ベクトルから説明する際に問題が生じるのではないか、という旨の追記をしたのですが、本日はこの問題について解説をいたします。

ベクトルの数値化手法

ベクトルxを、直交座標系を用いて、(x1, x2, x3)のような形で数値表現することが良く行われています。このx1, x2, x3という三つの数値はどのようにして導き出されたか、という点について考えてみます。

ちなみに、図形を直交座標系を用いて数値で表現する手法は、「われ思うゆえにわれあり」で知られるフランスの哲学者ルネ・デカルトの考案になるもので、直交座標系の英語「カーテシアン・コーディネイツ」は、デカルトのギリシャ語風呼び名である「カルテシウス」にちなんでおります。

直交座標系は、たがいに直交する3つの方向を向いた大きさ1の単位ベクトルe1e2e3(これを基底ベクトルと呼びます)を用いてベクトルを数値化する手法ですが、このやり方には次の二通りがあります。

第一の方法は、ベクトルを基底ベクトルの線形結合で表現する方法で、次式を満足するx1, x2, x3でベクトルを表現します。

x = e1 x1 + e2 x2 + e3 x3

テンソル表現は、x1, x2, x3を合わせてxkと表記します。このような方法で定義されるテンソルは、基底ベクトルの大きさが倍になると値が半分になる、すなわち値が基底ベクトルの大きさに反比例することから、反変テンソルと呼ばれます。

第二の方法は、次式に示すように、ベクトルと基底ベクトルのスカラー積で表現する方法です。

x1 = e1x、x2 = e2x、x3 = e3x

こちらも同じくxkという形でテンソル表記し、値が基底ベクトルの大きさに比例することから共変テンソルと呼びます。

これらの二つの手法で表現された数値x1, x2, x3と x1, x2, x3は、添え字の書かれた位置が上下異なっておりますが、三次元空間で互いに直交する単位ベクトルを基底ベクトルとする場合には、双方の手法で得られた座標値は同じ値(x1 = x1, ...)となります。

斜交座標系

前節では、基底ベクトルに、たがいに直交する大きさ1のベクトルを用いましたが、次元数に等しい数の互いに線形独立な任意のベクトルを基底ベクトルとして用いることもできます。

ここで、基底ベクトルが線形独立であるとは、任意のベクトルを基底ベクトルの線形結合で一意に表すことができることを意味します。すなわち、次式で任意のベクトルから反変テンソルxkをつくるとき、その座標値が一つに決まることを意味します。

x = e1 x1 + e2 x2 + e3 x3

基底ベクトルのいずれか一つが他の基底ベクトルの線形結合で表される場合、これらは線形独立ではありません。

スカラー積

ベクトルのスカラー積は座標系に独立な値を持ちます。共変テンソルと反変テンソルを用いると、スカラー積を容易に計算することができます。この計算に際して、アインシュタインの縮約記法(下式の最初の行)を用いると表記が簡素化されます。

xk yk = x1 y1 + x2 y2 + x3 y3
= x1 (e1y) + x2 (e2y) + x3 (e3y)
= (x1 e1 + x2 e2 + x3 e3)・y = xy

ここで、共変テンソルと反変テンソルの積をとっている点が注目されます。一方は、基底ベクトルの大きさに比例し、他方は基底ベクトルの大きさに反比例するため、これらの積は基底ベクトルの大きさに影響されない値となります。

なお、このような関係が成り立つためには、共変テンソルを作る際に用いる基底ベクトルと反変テンソルを作る際に用いる基底ベクトルは、同じものである必要があります。

テンソルの演算と計量テンソル

以下、記述を簡素化するため、アインシュタインの縮約記法をベクトルの添え字にも拡張することとします。これを使うと、反変テンソルと共変テンソルの定義式は以下のように書くことができます。

x = ekxk
xj = ejx

二つ目の式に一つ目の式を代入しますと、次のようになります。

xj = ejekxk = gjk xk

これがxkをxjに変換するための式でして、変換係数 gjk = ejek を計量テンソルと呼びます。また、この変換は連立1次方程式ですので、これを解けば次式の係数 gjk が得られます。
xk = gjk xj

4元時空のテンソル表現と虚数時間の必然性

4元時空は4次元のテンソルで表現されます。 時間成分であるx0を空間成分であるx1, x2, x3に加えて表現します。

話を分かりやすくするため、基底ベクトルは互いに直交する単位ベクトルとします。

この場合、ベクトルの大きさが1であるなら、計量テンソルの対角要素は1、非対角要素は0となるのですが、特殊相対論の要請から、対角要素の符号は、空間成分と時間成分で反転しなくてはいけません。(座標値、つまりxkの値自体を複素数とする手法も可能ですが、これは今回、扱わないこととします。)

つまり、g00が-1なら、g11 = g22 = g33 = 1、g00が1なら、g11 = g22 = g33 = -1としなくてはいけません。以下、前者の場合について説明します。

計量テンソルの各要素は、基底ベクトルのスカラー積であることを思い起こせば、次式が成り立たなくてはいけません。

-1 = g00 = e0e0

ベクトルのスカラー積の幾何学的な定義は、それぞれのベクトルの大きさの積に、双方のベクトルのなす角のコサインを乗じたものですから、同じベクトルのスカラー積は、そのベクトルの大きさの二乗となります。

つまり、4元ベクトルの時間方向の基底ベクトルの大きさは、二乗すると負になる、虚数的なふるまいをすると考えなくてはいけません。これは、ミンコフスキー空間の考え方と一致いたします。

虚数を隠す物理学では、基底ベクトルに基づくテンソルの説明がきちんとできないはずで、一般相対性理論のようなテンソルを多用する物理学で何をしているか、イメージが掴みにくくなってしまうのではないかと危惧するわけです。

今日物理学を教えている人たちは、このあたりのことを、どのように考えておられるのでしょうね。

とても興味があります。

4元ベクトルのテンソルとしての扱い

2019.2.12追記:時間方向の基底ベクトルの大きさを純虚数とすると、計量テンソルの時間項の対角要素が負になるだけで、テンソルを表す座標値には実数を使うことができます。

この方法を一般的な物理方程式に現れる4元ベクトルにも応用すると、スカラー積を作る際に時間項と空間項で符号を反転する理由が無理なく説明することができます。

つまり、4元ベクトルの座標表現は反変テンソルであるとみなせばよいのですね。xと書く代わりにxkと書けばよいわけです。

テンソルのスカラー積はxkxkと書くことができますので、xj = gjk xkの関係を利用して共変テンソルをつくればよいのですが、直交座標系でgjkは、時間部分の対角成分が-1、空間項の対角成分が1で、それ以外はすべてゼロですから、時間項だけ符号を反転してそれぞれの成分の積を足し合わせればよいことになります。

ファインマン物理学では、空間項の符号を反転しているのですが、このやり方は空間方向を虚数にして扱うことを意味し、面積を負にしなければいけないことになり、数学的には間違ってはいないものの感覚的には受け入れがたいものがあります。ここは、時間を虚数とするミンコフスキーのやり方を踏襲すべきでしょう。

なお、ローレンツ変換は、ミンコフスキー空間における回転変換を実数時間で表すことにより導かれます。これは二度手間であるような印象を受けるのですが、時間は虚数的にふるまうという一つの原則ですべてが説明されるという意味では、物理法則の単純化につながるのですね。

回転変換は、おそらく、テンソルの形でも可能であるように思います。つまり、元の基底ベクトルに対して回転した基底ベクトルを用いてテンソル表現したらどうなるか、という問題ですね。このような手法はすでに検討されていそうで、情報も探せばありそうですが、すぐには出てきませんので、今後の課題としておきましょう。


2019.1.25追記:上の議論は、時間方向の基底ベクトルの大きさが虚数であるとしております。こうすると、計量テンソルの時間に対応する対角成分がマイナスになる(空間成分の符号と反転する)結果、時間に対応する座標値を実数として以後の計算を遂行することができます。

これは、ディラック氏の著書でも説明されている、今日の一般相対論の式の普通の展開方法と思われます。(計量テンソルの対角成分を、時間項をマイナスにする代わりに空間項をマイナスにしているのですが。)

ディラック流のおかしなところは、符号を反転させるために、共変テンソルと反変テンソルの符号を特定の部分だけで反転させるという規約を天下り的に与えております。その結果として、該当する計量テンソルの対角成分がマイナスとなります。

でもこれは順序が逆であり、計量テンソルの対角成分は基底ベクトルのスカラー積であり、基底ベクトルの大きさが虚数である部分の対角成分がマイナスになるため、共変テンソルと反変テンソルの該当する要素の符号が反転するという論理とするのが妥当です。

計量テンソル以降はディラック流のやり方を踏襲し、計量テンソルの対角成分の符号が時間項と空間項で反転する理由として、時間方向の基底ベクトルの大きさが虚数となる、という原理を追加すれば、ほとんど今日のやり方を変更せずに済むのですが、なぜそうしないのでしょうね。

もちろん、時間方向の単位ベクトルの大きさが虚数であることを認めてしまうと、テンソルを用いる演算以外の部分で問題が生じるということは十分考えられるのですが。(早い話、ローレンツ変換が不要になったりすることが嫌われたのかもしれません。)

C・メラー氏のやり方は、座標を表す数値を虚数にするというやり方を採用されている様子です。結局のところ、時間が虚数的にふるまうのであれば、基底ベクトルの大きさを虚数としてもよいし、これに乗じられる係数、つまりは座標値を虚数としてもよいのですね。

そして、座標値を虚数とした方が、テンソルを用いる演算以外にも応用が利くという利点があります。ただし、計量テンソルの対角成分はすべて同じ符号となるはずで、この部分の式の展開をやり直す必要がありそうです。

まあ、メラー氏はきちんとやっているわけで、これを追えばよいということではあるのですが、、

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